翌日の午後、神崎は現場の周辺道路を歩いていた。
草むらに沿った砂利道を、特に目的もなく歩くように見せながら、頭の中では荒木巌の沈黙を反芻していた。「誰に頼まれたか」に答えなかった理由。その答えは、神崎がすでに知っている方向にある。だから荒木は答えなかった。
(確認しても、意味がない)
その言葉が、頭の中に浮かんだ。
ジープが来たのは、その時だった。
砂利道の向こうから、星条旗のついたGHQのジープが、白い埃を立てながら近づいてきた。
神崎は歩みを緩めず、道の端に寄った。
ジープが止まった。
降りてきたのは二人だった。
ひとりはムーア大佐だった。CICの中でも上のほうにいる将校で、神崎は一度だけ姿を見たことがあった。顔が広い。目が細い。感情をほとんど顔に出さない男だった。
もうひとりは——杉田だった。
(なぜ、ここに)
神崎は思ったが、表情を変えなかった。
ムーア大佐は現場の方向へ歩いていった。
杉田はジープの後ろを開けた。中に、証拠袋が積まれていた。鑑識のラベルが貼られた茶色い袋が、五つか六つ。工具類だと、すぐに分かった。
杉田は袋をひとつずつ、ジープのトランクに移し始めた。
神崎は道の端から、三十メートルほど離れた場所でそれを見ていた。
(持ち去るのか)
証拠品だった。捜査のために残されるべき物だった。それがGHQのジープのトランクに収まっていく。
杉田は丁寧な手つきで袋を積んだ。最後の袋を入れ、トランクを閉めた。
その時、杉田が振り返った。
視線が、神崎の方を向いた。
目が合った。
二人の間に、三十メートルの砂利道があった。夏の午後の光が、その間に満ちていた。
杉田は何も言わなかった。
神崎も何も言わなかった。
(分かっている、と言っている)
杉田の目が、そう言っていた。
(分かった、と答えている)
神崎の目が、そう返していた。
ムーア大佐が戻ってきた。杉田が助手席に乗り込んだ。ジープのエンジンがかかり、白い埃を上げながら走り去った。
砂利道に、静寂が戻った。
神崎は煙草に火をつけた。
煙草の先から、薄い煙が細く立ち昇った。
(これで終わった)
丹羽庄司に向けられた証拠が、今、GHQのトランクの中にある。捜査は続く。しかしその捜査は、最初から決まった場所に向かって走っている。
神崎は煙草を最後まで吸い、地面に踏み消した。
砂利道を、来た方向へ歩き始めた。