UAEパビリオンは、由美が二ヶ月前から予約していた。
入口で専用QRコードを読み込むと、担当者に案内された。予約なしだと一時間から二時間待ち、という話だった。「すごいな、ちゃんと調べとったんや」と健二は妻を見直した。
中に入った瞬間、健二の足が止まった。
柱があった。
天井まで届く、高さ十六メートルほどの柱が、視界の奥まで並んでいた。九十本。ナツメヤシをかたどったその柱は、日本の木工技術とアラブ伝統建築の「アリーシュ」様式を組み合わせたものだと後で説明があったが、説明を聞く前に体が先に反応した。
「なんやこれ……」
健二は低い声で言った。由美がちらっとこちらを見て、小さく笑った。
光が変わっていた。柱と柱の間から、間接的な光が差し込んでいる。音楽ともいえない、音が空間を満たしていた。人がいるのに、静かだった。正確には、人の声が溶けていく感じがした。
「パパ、あっちで違う景色が見られるって!」
さくらが走っていった。AR体験のコーナーだった。専用のデバイスを覗くと、未来のドバイの都市が目の前に広がるらしい。由美がさくらを連れて行ったので、健二は一人でしばらく柱の間に立っていた。
このパビリオンを作ったのはUAEだ。中東の、砂漠の国。それが今ここに、大阪の人工島に建っている。なんか、変な感じがした。変というか——遠い場所のことが、急に現実になった感じ。
健二はスマートフォンを取り出して、柱を見上げながら写真を一枚撮った。うまく撮れなかった。この空間は、スマートフォンには入りきらなかった。
「健二、こっちおいで!」
由美の声がした。健二は柱の間を歩いて、妻と娘の元へ向かった。