夢洲日和 · Story 03「日帰り大作戦」

怒涛の午前

2025年8月(平日)午前、夢洲・NTTパビリオン〜ノモの国〜ガンダム

まず決めたのは、「午前中に3つ入る」だった。

前日の夜に麻衣がスプレッドシートを作っていた。NTTパビリオン、パナソニック「ノモの国」、それとガンダムパビリオンの外観撮影。それだけで午前が終わる計算だった。

「ガンダムは抽選外れたからな」と麻衣が会場に入りながら言った。

「外から見るだけでも」と香織が答えた。「17メートルあるんでしょ」

「実物大らしい」

「実物大ってことはあのアニメのガンダムが実際に存在したら17メートルってこと?」

「そういうこと」

*  *  *

NTTパビリオンに着いた。事前予約制のパビリオンだ。麻衣が一週間前にウェブで10時の枠を押さえておいた。

「予約取れてよかった」と香織が言った。「週末の枠なんかすぐ埋まるって聞いてた」

「平日でも人気の時間はすぐ消える。早めに取っといてよかった」

時間になると係の人に誘導されて中に入った。パビリオンの外観は、通信の「時間」をイメージした設計だった。館内に入ると、係の人に「体験ゾーンは撮影OKです」と言われた。

メインの体験は「時空を旅する」というタイトルがついていた。

大きなスクリーンを囲む形で立ちながら、日本の通信の歴史を映像で見ていく。電信柱が立ち並ぶ明治時代から、インターネット普及の平成、そして6G通信の未来まで。映像が床にも映り込んで、足元から過去が広がっていくような感覚があった。

「すごいな」と麻衣は思った。口に出さなかったけれど、体験が終わったあとに香織も「よかった」と言ったので、同じ気持ちだったのだと分かった。

NTTを出て次の目的地へ向かいながら、香織がスマートフォンを取り出した。「公式アプリで他の待ち時間確認してみる」

しばらくして「……つながらん」と香織が言った。

「電波悪い?」

「電波は立ってるんやけど、アクセスエラーになって待ち時間の画面が出てこない」

麻衣も試してみた。公式アプリを開くと「アクセスが集中しています。しばらくしてから再度お試しください」というメッセージが出て、そのまま先に進めなかった。

「整理券の開放時間とかに一気にアクセスが集まるんやと思う」と麻衣が言った。「来る前の口コミにもそれ書いてあった」

「これはもうアプリに頼らんとこ」

「スプレッドシート通りに動く方が早い。次はノモの国、行こう」

*  *  *

パナソニック「ノモの国」は、入口から違う雰囲気だった。

「なんかカラフルだな」と香織が言った。

「ノモの国」というのは、パナソニックが作った架空の世界の名前だった。「暮らしがもっと楽しくなる世界」をテーマに、インタラクティブな展示が並んでいた。

目当てのミストウォールは、展示ゾーンの奥にあった。

霧が壁のように立ち上がっていて、その壁に映像が投影されている。二メートルほどの幅の霧の壁の前に立つと、ミストが顔に当たった。

「冷たい!」と香織が声を上げた。

「涼しい」と麻衣も言った。8月の炎天下を歩いてきた身体には、ひんやりとしたミストが気持ちよかった。

「ここもう一回来てもいい」と香織が言った。

「わかる。でも先に進もう」

*  *  *

ガンダムパビリオンの外に出たのは、11時半頃だった。

実物大のRX-78-2が立っていた。高さ17メートル。

「でか」と麻衣が言った。

「でか」と香織も言った。

二人でスマートフォンを出して、同時に撮影した。ガンダムの足元に人が集まっていた。上を見上げる人。スマートフォンを持つ人。親に肩車をしてもらってガンダムを指さす子ども。

「うちの息子に見せたら喜ぶかな」と麻衣が言った。

「ガンダム好きなんだっけ」

「最近プラモデル買い始めた。HGUCってやつ」

「じゃあ写真撮って帰ったら」

麻衣はガンダムを背景に自撮りした。ガンダムがフレームに収まりきらなかった。もう少し後ろに下がって、今度は全体を入れた。

「お腹すいたな」と香織が言った。

「午後の計画どうする?」

「ご飯食べて、あとは……静けさの森、行ってみたくない?」

(静けさの森)

麻衣は事前に調べていたが、まだ行ったことのない場所だった。

「いいね」と麻衣は言った。「そこにしよう」

Next「静けさの森」には1,500本の木が植えられていた。午後2時の夢洲に、ベンチが一つあった。